Thursday, February 13, 2020

原子状酸素照射による材料の抗菌活性発現の発見について - 宇宙航空研究開発機構

原子状酸素照射による材料の抗菌活性発現の発見について

2020年(令和2年)2月14日

株式会社クレハ
国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構

1.発表内容

株式会社クレハ(以下、「クレハ」)と国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(以下、「JAXA」)は、原子状酸素(注1)をプラスチック材料表面に照射することにより生じる微細な表面形状変化によって抗菌性能が発現することを発見しました。

2.研究の背景

原子状酸素は、国際宇宙ステーション(ISS)や地球観測衛星が飛行する高度数百kmの軌道上に多く存在しています。ロケットや人工衛星等の宇宙機で使用しているプラスチック材料は、原子状酸素と衝突することで表面が削られてしまうため、材料の性能を低下させる原因として認識されています。JAXAでは長年原子状酸素による宇宙機材料への影響及び対策について研究を進めてきました。

一方、クレハでは樹脂素材の開発から樹脂加工品などの川下技術まで含めた領域で事業を行っています。特に高機能フィルム分野では水蒸気及び酸素などのガスが通りにくいバリア性などを有した、特徴ある製品を世に送り出し、社会に貢献しています。中期経営計画「Kureha’s Challenge2020」では高付加価値付与が可能な製品の川下用途開発を強化しております。また2016年より新事業創出プロジェクトを立ち上げ、主に環境・エネルギー・ライフ分野で強みを生かした上での新たな展開を図っています。

3.本研究の概要及び成果

クレハとJAXAは、2017年より、原子状酸素によって変化した材料表面の抗菌性能発現にかかる共同研究を行ってまいりました。

本共同研究において、原子状酸素を照射したプラスチック表面に対し、JIS Z 2801「抗菌加工製品−抗菌性試験方法・抗菌効果」に準拠した評価試験を実施したところ、結果、複数のサンプルで大腸菌、黄色ブドウ球菌に対する抗菌活性が発現したことを確認しました(図1)。

原子状酸素によって削られた表面を電子顕微鏡で観察すると、1µm(1000分の1mm)程度の凹凸構造が形成されていることがわかります(図2)。

この方法では、本来は材料自体に含まれない抗菌剤などを添加することなく、材料表面の微細形状を変化させることで抗菌性を付与できることから、抗菌持続性や耐性菌対策などの安全性の観点から利用範囲の拡大が期待されます。
また、本共同研究では、多種の材料表面に対するシンプルな後加工(追加工)プロセスにより、微細な凹凸構造を形成できることもわかりました。これを応用することで、様々な形状の微細構造形成を実現する可能性があります。

クレハとJAXAは、引き続き共同研究を進め、実用化に向けた応用展開に取り組んで参ります。

なお、本共同研究は、2016年にJAXAと株式会社電通が共催した、企業とJAXAが双方の資産を活用し、新たなビジネスアイデアを創出するためのビジネスマッチングの枠組み「未来共創会議」を端緒としてスタートしたものです。

(注1) 地表付近の酸素は通常酸素分子(O2)として存在しますが、低軌道では太陽からの紫外線の影響で分解され、酸素原子(O)の状態で存在します。これを原子状酸素(AO : Atomic Oxygen)と言い、軌道高度が低くなるほど密度が高くなります。
プラスチック材料にAOが衝突すると、浸食されることが知られています。
図1

図1 12時間AO照射品に対する抗菌活性評価結果(JIS Z 2801準拠、黄色ブドウ球菌)
24時間後無加工片(赤)と24時間後抗菌加工片(緑)の差が2以上で抗菌活性有と判定

図2

図2 AOを照射したプラスチックフィルム(PVDF)の電子顕微鏡画像(左:表面、右:断面)
右図に、AOによって削られた表面の1µm(1000分の1mm)程度の凹凸構造が見られる

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