IoT機器向け自立電源などの用途に期待
東京大学や東北大学、金沢大学らの研究グループは2020年4月、鉄にアルミやガリウムといった元素を添加することで、鉄単体に比べて20倍も大きな磁気熱電効果(異常ネルンスト効果)が得られることを発見したと発表した。ゼーベック効果による従来型熱電変換に比べ、温度差や単位面積当たりの発電容量が極めて大きいという。
磁気熱電効果は、温度差と垂直方向に発電する。しかも、大面積化やフレキシブル化が容易で、効率よく発電が可能になることなどが特長である。このため、IoT(モノのインターネット)機器向け自立電源などの用途で注目されている。
今回の研究ではまず、東北大学の研究グループが中心となり、第一原理計算を用いて自動的に磁気熱電効果を計算する「ハイスループット計算手法」を開発した。候補物質をスクリーニングし、磁気熱電効果の理論値をデータベース化。探索した材料の中から、安価で工業的に利用しやすい鉄系材料に着目した。選択した材料の性能を確認するため、金沢大学と理化学研究所が、電子状態について詳細な解析を行った。
この結果、鉄にアルミニウムやガリウムを25%添加したFe3Al、Fe3Gaが鉄単体に比べ20倍もの磁気熱電効果を示すことが分かった。しかも、−100〜100℃の広い温度範囲で高い性能を維持することも明らかとなった。
研究グループは、厚みが数十ナノメートルというFe3Alおよび、Fe3Gaの薄膜を作製した。この試料を用いて、薄膜でも高い性能を維持することができ、ゼロ磁場で過去最高となる磁気熱電効果が得られることを確認したという。
今回発見した異常ネルンスト効果は、ノーダルウェブと呼ばれるトポロジカルなバンド構造に由来していることが分かった。これまで、異常ネルンスト効果が大きくなるにはベリー曲率と状態密度を同時に大きくするバンドの存在が重要といわれてきた。今回はその条件を満たしているという。
研究グループは今後、磁気熱電効果を用いた熱電モジュールや熱流センサーの開発を行う予定である。
なお、今回の研究は東京大学物性研究所の酒井明人助教、Taishi Chen特任研究員、肥後友也特任助教、東京大学大学院理学系研究科物理学専攻・物性研究所および、トランススケール量子科学国際連携研究機構の中辻知教授らによる研究グループと、金沢大学の見波将博士後期課程大学院生(研究当時)、石井史之准教授(理化学研究所客員研究員)、東北大学大学院理学研究科物理学専攻の是常隆准教授、東京大学大学院工学系研究科の有田亮太郎教授(理化学研究所チームリーダー)、物性研究所・トランススケール量子科学国際連携研究機構の三輪真嗣准教授らによる研究グループが協力して行った。
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